7月8日

一週間のイギリス滞在を終え、後半はアメリカである。ニューヨークとサンフランシスコでそれぞれ友人と会うことになっている。そう、今回はお友達訪問ツアーなのだ。

さてさて、ヒースロー空港では大変な目にあってしまった。それでなくてもえらい混雑だったのだがイギリスーアメリカ二国間の協定だとかでものすごい厳重なチェックを受けた。チェックインの前に2、3分のインタビューを受けるのだがあやしい日本人だと思われたのかなあ。

「これはあなたの荷物ですか?」

「はい」(あたりまえじゃん)

「どこでパックしたのですか?」

「は? そ、そーりー?」

「ホテルでパックしたのですか?」

「あっ、はい」(変なこと聞くなあ)

「あなたがパックしたのですか?」

「はい」(他に誰がやるんじゃ)

「どうやって持ってきたのですか?」

「は? そ、そーりー?」

……

何回も聞き直す。

「いいんですよ。ホテルでパックしてから、ここまで あなたが自分でそれを持ってきたのですか」

「そーだよ!」(ああ、やっとわかった)

パスポートを見て、

「トルコへは何しに行ったのですか?」

「観光です」(3年も前だぞ)

「ちょっと待っててください」

離れてごそごそ相談している。やだなあ。

「モロッコヘは何しに行ったのですか」

「観光だよ」

「モロッコで誰かと接触しませんでしたか?」

「いいえ」(俺はスパイか)

ようやく通してくれた。

「これはいつものことなのですか?」

「ええ、そうですよ」(ほんとかよー)

 

しかし、まだ試練は続くのだった。ランダムサーチとか言って荷物の検査のシールを張られてしまった。あれは絶対わざとにちがいない。そういうわけで荷物を開けて中身を丹念にチェックされた。

ほとんど泣きそうな気持ちでようやくチェックインし、免税のスタンプをもらって投函したら、もう出発まで30分しかない。

しかし、まだ終っていなかったのだぁー。搭乗口でまた手荷物をチェックされてしまった。おまけに身体検査までされて不愉快だー。ボーディングパスに座席指定がなくて、「搭乗口で指定します」っていうのがなんか変だなと思ったんだよなあ。何か特別にマークされているんじゃないかと思ったくらいだ。あやしい人間もしくは利用されやすい人間とみなされたんじゃないかと思う。搭乗口で「この荷物はいままでずっとあなたが持っていましたか?。誰か触りませんでしたか?」なんて聞かれた。

ま、とにかくやっとのことでニューアーク空港にたどりついた。ホテルはミルフォードプラザという八番街に面した中級ホテル。バスターミナルから数ブロックと便利な場所にある。ここの「ララバイ・ブロードウェイ」とかいう朝・夕食付きのパックで一泊99ドル+TAX。ただし、3泊もすると出される夕食に飽きてしまった。

今日は木曜日。近代美術館が夜9時までやっている。さっそく出かけた。それにしても暑いこと暑いこと。

MoMA は春に日本に来たので見た人が多いだろう。木曜日は寄付だけで入れるようだ。でも、わからなくて通常のチケット代と同じ7ドル払っちゃった。特別展として南米の画家の絵が展示してあった。このコーナーは多くの人でやや混んでいる。みな会社の帰りにちょっと寄ったという感じのニューヨーカーたち。

常設展の方はとっても空いていて、例えば人気の「眠るジプシー女」なんかも誰にもじゃまされずにゆっくり見ることができる。

ホテルでは夕食のクーポン券をもらっていて、ホテル内のイタリアレストランの 12.5ドルの3種類の定食の中から選ぶことができる。その他に飲物のクーポンももらえる。もちろん自分でお金を足してもいいようだ。スパゲティを頼んだがいやに量が多く、あまりおいしくなかった。

さて、ニューヨークの夜はこれからなのだ。ふっふっふ。帰りに買ってきたVOICEで今日のライブをチェックする。とりあえず今日は、スィートベイジルのスティーブ・レイシーのカルテットにしよう。

タクシーで店まで行くと店の前に列ができていた。ちょっとあせったが、10分ばかり待たされただけで店の中は空いていて前の方のとてもいい席に座れた。ここはいかにも老舗というか落ち着いたゆったりとした雰囲気がありいいジャズクラブだと思う。テーブルチャージとミニマムオーダーは忘れてしまったが確か25ドルくらい。

ニューヨークは第一日から充実していた。

1993年7月 Steve Lacy at Sweetbasil のReview記事
Pop and Jazz in Review – New York Times
アンリ・ルソー 「眠るジプシー女」 眠るジプシー女

7月9日

今日はまず自然史博物館にでかけることにした。それにしても大変な暑さだ。ニューヨークは8日から11日まで滞在したが、この間が暑さのピークだったらしく、3日連続100°Fを越えたらしい。なんでも半世紀ぶりの猛暑だということで、天気予報でも東海岸は真っ赤っかだった。かと思うと南の方ではミシシッピ川が溢れているらしい。ニューヨークは歩いていても空気が重たくて体にまとわりつくようだ。汗がだらだら流れてまるでバンコクを歩いているのかと思っちゃうほどだ。

自然史博物館だがロンドンのそれと実によーく似ている。ただ、全体としてアメリカの方が豪華な感じがした。どちらも哺乳類の剥製や植物や魚、鉱物などがある。それから実物大のシロナガスクジラがある。もちろん恐竜のコーナーもある。

地下のカフェテリアでお昼を食べた。ここはけっこう高い。

午後はミッドタウンに戻ってぶらぶら歩いた。ATTのビルにコンピュータ関連の見学コースみたいなものがあるらしいので探して歩いた。絶対ここにあるはずだという所に来たのだが工事中のビルしかない。あれぇ?。ま、こういうことはよくあるんだけど……。しばらく歩いてやっとわかった。ソニーがビルを買っちゃったのね。秋にソニープラザがオープンするんだそうな。

しょーがないので、向かいのIBMのビルでお茶を飲んで時間をつぶした。マンハッタンの高層ビルは必ずパブリックスペースを作らなければいけないそうで、どこもガラス張りで明るくて緑があったり水が流れていたりする。

そのあと、その辺をぶらぶら歩いて本屋やソフト屋さんをのぞいた。今日もライブを聞きに行こう。ブルーノートでスタンリージョーダンをやっているのでそれに行くことにした。ホテルに帰って早めの夕食を食べてから8時過ぎにでかけた。頭ではタクシーで行くと決めてかかっていたのでタクシーを捕まえてしまったが、よく考えたらまだ外は明るいのだった。

タクシーの運ちゃんはブルーノートなんて知らない。住所を言っても何だかよくわからないようだ。VOICEの切抜きを見せて「ここなんだけど」とやっているとドアマンが助けに来てくれた。「どこ行くんだい。おっ、スタンリージョーダンかぁ、いいねえ」とかなんとか言って、どっかからの移民であろう運ちゃんに場所を教えてくれた。

ブルーノートは東京のブルーノートと同じ雰囲気の店だ。とにかく客をたくさん入れる。大物がよく出演するんで仕方ないか。ミニマムが高くてテーブルチャージと合わせると昨日のスイートベイジルよりだいぶ高くなる。予約しないで行ったが、一人だったせいかちょっと待たされて割といい席にもぐり込めた。ただ、ぎゅうぎゅうに詰められているので一人だとちょっと気まずい感じもする。これは東京もいっしょだ。帰りは店をでたとたんに目の前にいたタクシーに乗ってさっさと帰った。

7月10日

きょうは買物をして午後はメトロポリタン美術館に行く予定。まず、J&R Music World というコンピュータの店へ行った。もともとは CDやオーディオの店だったのかもしれないが、コンピュータの店やソフトウエアの店もある。それぞれ別々の店舗になっている。場所はロウァーマンハッタン、シティホールの近く。

地下鉄の駅を降りてしばらく探して歩いた。ここはウォール街に近いとはいえ、今日は土曜日。あたりは閑散としてちょっとこわい感じもする。コンピュータパーツの方は値段も品揃えもいまいちだったのでパスして、ソフトウエアをいくつか買った。

帰りはメイシーズに寄ったりドラッグストアでビタミン剤を買ったりしながらてくてく歩いた。マンハッタンには、Barnes & Noble という本屋が何箇所かあるがそのうちのひとつで lonely planet のベトナムとネパールとブラジルを買った。役に立つ日が来ますように……。ただ、lonely planet はロンドンで買った方が安かったようだ。

ふと気がつくと現金がない。今日は土曜日、ああ、またやってしまった。でもそんなはずはないんだけどなあ。どうも計算が合わない。ホテルに帰ってちゃんと確かめたがやっぱり足りない。うーん、すられたか、あるいはおつりをごまかされたかのかもしれない。僕はいつも無造作にポケットに札を入れて歩くのだけれど、いまいくら持っているかを把握していないのは悪いくせかもしれない。おつりを確かめないのももっと悪いくせだなあ。

タイムズスクエアに面した新しいビルにアメックスがあるらしいので、そこでTCを変えることにした。銀行と違ってあっというまに終るのがいい。手数料もかからない。ここは新しめの高級ホテルのようで団体の観光客がうろうろしていた。

ピザとコーラで昼食をすませてからメトロポリタン美術館へ行った。目立たない所にありなかなか行けなかった日本のコーナーは静かでいい所だ。休憩所に畳があっておもわず寝ころびそうになってしまった。座ってはいけないと思うのだろうか欧米人は座らない。僕はついつい靴を脱いであがってしまった。

きょうはどこで食事をしようか。ホテルの夕食にはもう飽きてしまったので外で食べることにした。クーポンで食べられる食事は3種類あって、もうひとつ食べていない種類が残っているのだが、あまりおいしくないんだもの。ところで、朝食もクーポンなんだけど、パンが一個だけとコーヒーといういわゆるコンチネンタルというやつだ。もちろんお金をだせばイングリッシュブレックファストになるのだが、それだったら外のコーヒーショップでいいということになってしまう。というわけで今回のホテルの食事付きプランってそんなにいいものではなかった。

さて、結局、寿司を食うことにした。しかし、高い、高い。それになんか高級って感じでぼくにとってはあまり居心地のいいとこじゃなかった。最後にカードで支払う時に、おねえさんが「チップは15%くらいだからそこにいくらって書いて合計をそこにいくらって書いてください」とか言うのが余計なお世話だと思った。そんなことまで教えてくれなくたっていいわい。

明日は 9時の飛行機に乗るので、今日は早く寝ることにしよう。

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