12月23日(火)
今日のツアーは朝7時半にホテルに迎えが来ることになっている。朝食はいつも宿のご主人が用意してくれる。ホテルナタリーノのご主人は英語を話さないが、かまわずスペイン語で話し掛けてくる。それもかなり話し好き、世話好きらしくぺらぺらといろいろなことを話してくる。二階に共用の明るいリビングがあるよとか、そこに日本語の本があるとか、そういうたわいもないことなのだけれど、なんだかとってもいいおやじだった。
ツアー用の車はバスではなく座席が3列もあるようなRVのでかいやつだった。まず、パイネへ行く途中にあるミロドン洞窟という所へ寄った。ミロドンというのはこの洞窟で発見された動物の名前で、その動物を復元した像が洞窟のなかにある。ミロドン洞窟の入場料1600ペソはツアー代とは別である。
洞窟といっても入り口の幅も高さも数十メートルあり、奥行きもそうあるわけではないので、中も明るくて、あまりおもしろいところではなかった。だだっぴろい洞窟の中を一回りしてくるように道ができている。入り口付近にミロドンの像があるのだが、体は熊のようで、顔はもう少し細長い。口元は馬に似ているかも。
どうでもいいような洞窟をあとにして、パイネ国立公園へ向かう。
Paine national park
ガウチョ
途中の景色のいい所で車を停めて、写真を撮ったりしていると、犬を3匹連れて馬に乗ったおじさんがやってきた。馬の脇腹には赤い色をした肉をぶら下げている。この人がガウチョだそうだ。ぶら下げている肉は羊の肉だとのこと。ガウチョのおじさんは暖かそうなチョッキを着て、ベレー帽みたいな帽子をかぶっている。帰りに別のガウチョにも会うのだが、やはり犬を3匹連れていた。しばらく観光客に写真を撮らせてくれて、ガウチョのおじさんはさっそうと去っていった。かっこいい。
Guanaco in Paine Natioanl Park
グアナコの群れ
途中、グアナコの群れに出会った。最初はグアナコなんてわからずに、これビクーニャか?なんて聞いてしまった。ビクーニャは希少動物で保護されていてそうそう会えるわけではない。(でも、グアナコとビクーニャとリャマとアルパカはみんな似ていてごっちゃになってしまう。)
警戒しているのか、興味があるのか、カメラを構えているとキョトっとした目でこちらを見る。特に子供のグアナコは不思議そうにこっちを見ている。なんとも愛敬のあるやつだった。
パイネ国立公園の入場料は6500ペソだった。公園の入り口の所でキツネに出会った。が、いやに人間に慣れており、どうやら餌付けされているようだった。
ペオエ湖
ペオエ湖という湖にやってきた。ここから、我々のツアーでは使わないが対岸への遊覧船が出ている。大勢のトレッカーたちが船を待っているようだ。近くにある滝を見に行ったら、日本人の若者に会った。やはり船を待っている所だそうで、大きなバックパックをしょっている。なんでも、4日間、この公園内に滞在するそうだ。食べ物さえあればもっと長く居られるのだがそうもいかないからとのことだ。宿の心配はないらしい。
公園内に滞在するには何個所かある避難小屋(レフジオ)に泊まることになる。夏は大変混雑していてなかなか泊まれないなどとガイドブックには書いてあるが、12月のいまだと、まだそんなに混んでいないようだ。
パイネ峰
パイネ峰は、二つの尖がった形の山の間を氷河がえぐるように流れているという、ちょっと変わった形なので一目見ると忘れない。周りの山々は雪を白くなっており、氷河もそこかしこにある。パイネ国立公園はそうした山々と氷河によってできたたくさんの湖とでできていると言ってよい。あたりは湖だらけで、車はそうした湖と湖の間を縫うように走るのだ。
ペオエ湖を通り過ぎて、グレイ湖へ向かう。ペオエ湖は青みがかった緑色をしたとても美しい色の水をたたえた湖だった。イースター島の海の色も美しかったが、ここの湖の色も大変美しい色だった。プエルトモン周辺にも美しい湖が多いのだが、こちらはこちらでもっと濃い青色をしている。
カフェのようなところで休憩しているときに、突然中年夫婦に話し掛けられた。私がカナダのバンフで買った服を着ていて、胸に「バ・ン・フ」と書いてあったからだった。
「バンフに行ったことがあるの?」
彼女らはフェアバンクスに住んでおり、数の子漁の仕事をしているとのことだった。日本にも輸出しているらしい。夫婦で、バンフはもちろん、世界中あちこちに旅行にいくようだ。日本にも行ったことがあり、築地の市場を見学したそうだ。
「数の子があったわ、私たちのかどうかはわからないけど」
アラスカといえば、オーロラ。オーロラは見えるの?と聞くと、家から見えるという。なんて素晴らしい。
「へぇー、すごいすごい。オーロラって一年中見えるの?」
だが、これはちょっと馬鹿な質問だった。
「うん。いや、夏は見えない。夏は夜も明るいからね。白夜だから」
そりゃそうだ。
旅の楽しみのひとつは世界中のいろいろな旅行者と話をすることだと思う。こういうタイプの夫婦の旅行者はどういうわけか欧米人に限られていて日本人にはなかなかいない。
グレイ湖 Lake Grey - Paine N.P. , Chile
グレイ湖
車はグレイ湖のそばまでやってきて、いよいよグレイ氷河から割れ落ちてグレイ湖に流れてくる流氷を見に行く。車を降りて林の中を少し歩くとグレイ湖のほとりに出る。ものすごい強風だ。氷はかすかに青白い色をしている。50円くらいのソーダアイスの色に似ている。
氷までの距離が遠いせいか、曇り空でさえない色をしているせいか、流氷を見た最初は「ふーん、こんなもんか」という印象だった。
吹き荒ぶ風の中、転がっていた大きな流木を風除けにして、流氷を見ながらお昼ご飯を食べた。お昼といっても昨日スーパーで買ったパンといわしの缶詰とジュースである。ツアーにお昼は付かないし、他の人たちは食べ物を持っている風には見えないのだが、いったいどうしているのだろう。ひょっとするとお昼は食べないのかもしれない。
天気は曇り空。風が吹き荒び、わびしい食事をしながら青白い流氷を眺める。想像していたのとはかなり違う氷河見物になったが、まあそれでもこの不思議な光景は印象に残った。
湖の遥か向こうにはグレイ氷河が見える。あそこまでいけばなかなか楽しそうだが、なにしろ歩いて3時間もかかる距離だ。
湖のほとりは砂浜になっていて、浜沿いに少し歩くと岬のように山が湖に突き出ている所があった。そこに登れるように道ができているので、上まで登ってみると流氷群を上から見ることができてこれはなかなか見ごたえのある景色だった。岬の先の方までいくと、流氷に近づくことができる。流氷は遠くにあるほど大きく、岸に近いと小さいから、岸から遠くのりっぱなやつを見ることができてちょっとうれしい。遠くのグレイ氷河もいくらかはっきりと見える。
そうしているうちに集合時間が来てしまったので、急いで帰ることにした。車までの帰り道が相当あることを忘れてしまい、途中少し走って5分くらいの遅刻だった。どうせみんな集合時間はいいかげんだろうと思っていたら、とんでもない。日本人の私以外は全員座席に座って待っていてくれたのだった。
行きはあちこち寄りながら来たので知らぬまに着いてしまったような気分だが、帰りは何時間もひたすら車を走らせて町を目指す。ツアーのメンバーも眠ってしまったりぼんやり窓の外を眺めて静かにしている。途中、1回休憩して、やっと町にたどり着いた。
ほんのさわりだけだったが、雄大な景色を存分に味わうことができて、なかなかいいツアーだった。さらに時間をかけて公園の中を歩き回ればどんなに素敵だろうかということは容易に想像できる。本格的なトレッキングをする人たちにとってはこたえられない楽しさだろうなと思う。明日のセラーノも楽しみだ。
つまりガウチョとは混血住民のことであって職業名ではない。職業としての牧人はバケーロである。このおじさんがほんとのガウチョだったかはいまとなっては不明。